株式会社人材研究所 代表取締役社長の曽和利光氏に聞く「コロナ危機における人事課題II」【第4回目】(後半)
2020年5月22日(金)、WEB面接サービス「harutaka(ハルタカ)」を提供するHR Tech スタートアップ 株式会社ZENKIGEN(代表取締役CEO:野澤 比日樹)は、日本初のCHRO養成講座「CANTERA」を運営する株式会社All Personal(代表取締役:堀尾 司)と共同で、新型コロナウイルス関連の緊急対応に奔走する人事担当者の悩みにリアルタイムで答える「コロナ危機における人事課題の相談所II Vol.4」を実施いたしました。
今回は株式会社人材研究所 代表取締役社長である曽和利光氏をゲストに迎え、堀尾氏と清水が参加する形で1時間のウェビナーを開催しました。
記事後半では、フリートークでの質疑応答の詳細についてお伝えする。
記事前半はこちら。
Q1. オンラインでできる課題の具体的な事例を教えてください。
曽和:テキストベースでできる議事録の提出を基本として、最近増加する映像の編集をやらせています。またこれは特にオンラインでというわけではありませんが、課題図書を出しています。マインドセットの部分はオンラインでは難しいので、20冊読んできなさいといった具合にかなりハードに知識インプットを先行させています。
Q2. コロナ禍で、応募者の意識や、採用する企業側の動向にどのような変化が見られましたか。
曽和:各社の新卒の応募者数、説明会の参加者数とか、面接の受験者数等々、すべて増えていますね。売り手市場でない空気を感じ、学生は不安を感じていますが、このままいくと辞退者も増えそうです。面接のオンライン化は定着したと思います。最終面接までオンラインで完結させるのか、あるいはリアルに戻すのかでスピード感が違っています。
採用に関して言うと、おそらく21卒は投資した結果のコロナだったので、おそらく採りきると思います。次の22卒は少し厳しくなるかもしれません。リーマンショックの時も、その年は採りきって翌年が75%、その次の年が60%でした。今回はもっと一気に来る可能性があります。
見方を変えれば、コロナによってそこまで打撃を受けていない企業は“採り時”だとも言えます。不景気時に取った人が活躍するというのはよくある話ですね。夏のインターンをどうしようかと迷っている企業もあると思うのですが、今だからこそ逆張りが効くとも言えます。
Q3. パーソナリティテストを相互理解に活用する事例があるそうです。オンラインがゆえに相互理解が損なわれているとの問題意識を持つ企業が増えているのでしょうか。
曽和:退職率が増えたとの明確な数字が示されているわけではないのですが、人材紹介会社の登録者や、副業のサービスを行う会社の登録者が増えているのは事実です。ただ、おそらくその部分は人事から見えていないはずです。
案件が増えているわけではないので、多くの人にとっては実際に転職するのは難しいかもしれません。だから一番怖いのは退職者の数ではなく、一部の優秀な人が抜けてしまうことでしょうね。
Q4. オンライン面談の実施結果を人事側としてどう活かしけばよいでしょうか。
曽和:WEB面接の注意点はいくつかあります。まず、非言語コミュニケーションが減ることは意識しておかなければならないと思います。「話者交換」というのですが、人間は話をするときに目線や息でコミュニケーションしているそうです。でもオンラインの場合、相手と目が合っているようで、実はカメラを見ているんですよね。またオンライン会議で「どうぞ、どうぞ」と話を譲り合うストレスは誰にも経験があるはずです。
ですからオンラインの場合は、キャッチボール型からプレゼンテーション型にシフトする必要があります。つまり、相手の話に疑問があっても話の腰を折らずに耳を傾けてといった具合に、ストロークを長く取るよう心がけたいですね。
リアルだとフリートークのほうが印象はいいです。でもオンラインの場合は、1つ目はこういう質問をします。どう思いますか? 2つ目はここを訊きますといった具合に、きちんと構造化する方が、相手も十分話せたという充実感を得られます。これは1on1でも活用できます。面接で話しにくいと、面接官の印象はすごく悪くなり志望動機が下がってしまうそうです。こうしたオンラインコミュニケーションや WEB面接の研究は既に結構存在しています。
Q5. アフターコロナで上司と部下、それぞれに求められる新たなスキルを教えてください。
曽和:言語化能力ですね。言語化や可視化によってオンラインでも信頼関係は築けると思います。逆にアクションや表情に頼ることや、「よきにはからえ」マネジメントをしていた人は、きついでしょうね。ある意味、言語化能力の低い上司とか、計画性や段取り力がなく業務の標準化をしていなかった上司があぶり出されてしまうのですが、テレワークに合わないからと言って罰することや、異動させることも難しいわけです。
それでも組織は続く中において、人事の方が悩むところだと思います。
それから、聞き出す能力、信号を察知する力も必要です。テレワークが長引く中で、私は人知れず壊れていくような、仕事のできる人のバーンアウトがあるのではないかと恐れています。
部下も同じですが、結局アサーションだと思います。直訳すると「主張する力」という意味ですが、強い自己主張ではなく、適切に意志を表すという意味で使われる言葉です。その能力がないと抱え込んで、潰れるまで仕事してしまうようなことが起きるのではないでしょうか。
堀尾:そもそもアフターコロナだからウィズコロナだからと言って、新しい能力が必要ではないと思っています。つまりマネジメントに必要な能力の足りない部分が表面化したという認識です。だから言語化力をいかに合意形成力に変えるか。上司・部下の適切な関係性をこれまで適材適所で保てていたのか。あるいはアサーティブな関係にできていたのか、信頼残高を保てていたのか。そうした1丁目1番地のことができているかどうかだけだと思います。
Q6. ウィズコロナで組織運営自体が大きく変化する中で、人事にはどのようなマインドセットやスキルセットが求められていくのでしょうか。
曽和:働き方というのは、感情的にもなるし、一番、合意形成が難しい部分だと思います。
ですから人事のキーワードは「合意形成能力」ではないでしょうか。きちんと自社にとって合理的なものを選び、いかに納得させて浸透させていくかですね。
昔からHRはチェンジマネージャーだと言われていましたが、これまでは主に経営が表に立っていたでしょう。でも働き方については、きついとは思いますが、人事が矢面に立ってチェンジリーダーをやっていかなければいけないのではないでしょうか。
Q7. オンライン化が進む中で、組織の暗黙値だったものが言語化されることが必要だという話がありましたが、うまくいった事例があれば教えてください。
曽和:まだ現在進行形の段階ですが、たとえば採用基準や評価基準になるものとして、ハイパフォーマーの分析があります。でも、無意識ですらすらできてしまうハイパフォーマーは、自分が何をやっているかを実は自覚していません。これは言語化能力とは違う意識化の部分ですね。ですから、ハイパフォーマーを観察して形式化する役割の人を作る必要があります。もしかしたら、それが人事かもしれません。
どういう人がほしいかではなく、どういうことをやっているのかをヒアリングして、行動ベースでパフォーマンスの高い理由を分析することが大切です。加えてパーソナリティテストを準客観的なエビデンスとし、ハイパフォーマンスを推定することによって、ゴールを設定することも必要になってくると思います。
最後に視聴者へメッセージをお願いいたします。
堀尾:人事の皆さんは簡単に決めきれないことを、ここ1週間くらいで決めなければいけません。つい2か月前まで成長目標だったところが、維持。2か月前は維持が事業目標だったものが死守って形で大きく変わるかもしれません。それが半年なのか、1年なのか2年なのかまだ読めない状況の中で、答を出すのはとても難しいと思います。
ゆえに失敗が許されない状況だとは思うのですが、だからこそ曽和さんのような方にアドバイスをもらうとか、多くの方とネットワークを作ることにより最適解をみつけられるよう皆で力を合わせられたらと思います。一緒に頑張っていきましょう。
曽和:コロナへの対応に関して、誰も正しい答を持っていないのが現状だと思います。オンラインコミュニケーションの話にしても、これまでと異なる新たな研究対象がどんどん出てくる可能性があります。
つまり、現在は試行錯誤して、ある程度トライ&エラーを重ねていくしかないと思います。実は、働いている人も人事の話に耳を傾け、一緒になって前向きに取り組んでくれる稀有な時期であるのかもしれません。人事とか経営でかかえこまずに、全社一丸となり、いろいろな意見を聴きながらやっていけば、きっと皆やさしくなってくれるのではないかと思います。
事業は違っても人事の仕事には共通する課題があったりするものです。一人で考えていたら絶対潰れてしまいます。ですから、このように人事がお互いに情報共有する場に参加して、味方に助け船を求めましょう。私も微力ながらサポートできればと思っております。
曽和 利光(株式会社人材研究所 代表取締役社長)
堀尾 司(株式会社All Personal 代表取締役CEO)
清水 邑(株式会社ZENKIGEN コミュニティプロデューサー)