神戸大学 服部教授、ソフトバンク、ZENKIGENによる面接官の実践知に関する産学共同研究プロジェクト
※本記事は2024年9月29日に開催された「2025年度組織学会年次大会」にて発表された内容を元に作成をしたレポートです。
【プロジェクト参画メンバー(敬称略)】
(1)国立大学法人 神戸大学
服部泰宏(組織行動/人事管理を専門とする経営学者)
(2)ソフトバンク株式会社
源田泰之・足立竜治・加藤義大・齋藤孝明・青柳裕(人事部門に所属する新卒採用の実践家)
(3)株式会社ZENKIGEN(採用DXツールharutaka提供会社)
小荷田成尭(事業責任者、データサイエンティスト)
岩本慧悟(対人認知やストレスを専門とする社会心理学者)
神戸大学 服部教授・ソフトバンク・ZENKIGENは産学共同の研究プロジェクトにより、それぞれの強みを活かして「熟達面接官」の実践知の解明に取り組みました。
結果、従来の採用面接研究ではあまり注目されてこなかった「実践知」という観点から、熟達面接官の行動特性や思考プロセスを具体的に明らかにすることができました。今回のレポートでは「2025年度組織学会年次大会」にて発表された上記取り組みの概要をご紹介致します。
目次
共同研究発足の経緯
本パートでは、どのような経緯で共同研究が立ち上げられたのか、そしてどのような課題意識を持っていたのかについてお話しします。
1. 共同研究のきっかけと目的
元々は、関係者間で人事系のカンファレンスやソフトバンクアカデミアを通じて良好な関係性が築かれていたことがきっかけで、ゆるやかな繋がりから始まりましたが、それぞれの立場や思いを共有する中で、自然と共同研究という形に至っていきました。
従来型の新卒採用活動は、学生にとっても企業にとっても必ずしも良い体験とは言えないのではないかという課題意識がありました。
学生にとってより良い採用体験と双方にとって納得感のある採用を実現するために、熟達面接官の実践知を明らかにすることを目的に共同研究をスタートすることになりました。
2. 共同研究の体制とそれぞれの強み
組織行動や採用領域を専門とする研究者の神戸大学 服部教授、AIを活用した面接分析を行うZENKIGEN、そして豊富な採用ノウハウとデータを持つソフトバンクという三者でプロジェクトを推進していきました。
三者の強みを生かし、単なるデータ分析や効率化にとどまらず、学生にとっても企業にとってもより良い採用活動を目指して「より良い面接体験を学生へ提供し、公平な選考を実現したい」という共通の想いに基づいて、共同研究が進められていきました。
面接官の実践知研究プロジェクト
本パートでは、具体的な共同研究の内容とその背景、そして得られた知見についてお伝えします。
1. 研究の背景と目的
採用面接研究はこれまで実に多岐にわたる展開をみせておりますが、それらの知見の多くは職務分析に基づいた「構造化面接」の推奨をする根拠となってきました。
しかし日本の新卒採用では職務内容があらかじめ明確でない場合も多く、本当に「構造化面接」が望ましいのか?という疑問もある一方で、「構造化面接」を行わない場合には、面接官の力量がかなり求められる点が採用面接における課題でもありました。
そこで、経験を通じて熟達化していく過程で獲得される知識である「実践知」に着目し、特に構造化度合いの低い面接における「面接官の実践知」を明らかにすることを今回の研究では目指しました。
熟達面接官の持つ「実践知」を明らかにすることで、今後の面接官育成の方略やテクノロジーを用いた支援を検討していきます。
2. 研究内容と結果
ソフトバンクの現役面接官26名を対象に、自身の面接動画を視聴しながら気づいた点を言語化してもらい、熟達面接官と標準面接官の発言内容を比較分析することで、熟達面接官特有の実践知を抽出しました。
その結果、熟達面接官特有に言及された内容としては以下のような特徴が挙げられました。
・面接の準備/導入
・質問意図に関する発言
・認知処理への言及
・惹きつけ行動
上記内容を踏まえ、
熟達面接官は「立体モデル」で候補者を理解しているのではないか、と考察します。
また、立体モデルを支える認知的な特徴として、
①バイアス補正の意識的処理
②人物データベースの参照による認知資源の節約
③曖昧な評価確信度の許容による不要な深堀の回避
といった点が熟達面接官には多く見られました。
熟達面接官は、候補者から引き出した内容に関するポジティブまたはネガティブな印象を覆しながら最終的な評価を残していたことも分かり、今後の研究に繋がる示唆を得ることができました。
研究成果の活用について
本パートでは、共同研究として実施した分析の具体的な内容とその成果、そしてソフトバンク内における今後の活用についてお話をします。
1. 分析内容と成果
定性分析:
26名の面接官へのインタビューを実施し、ソフトバンク特有の評価観点を抽出。
熟達面接官と標準面接官の違いを分析し、熟達面接官特有の評価項目を特定することに成功しました。
定量分析:
候補者から承諾を得たWeb面接データを解析。
定性分析で得られた評価項目を基に作成したAI評価モデルがつけた点数を参考に定量的な比較を行うことで、定量的な観点からも熟達面接官特有の評価項目は何かを特定することに成功しました。
成果:
定性と定量双方の分析結果に基づき、最終的には熟達面接官の評価観点・思考プロセスをモデル化することに成功しました。
2. ソフトバンク内における今後の活用
今回の共同研究を通じて、これまで感覚的に捉えられていた「熟達面接官」の特徴を、具体的な行動特性や思考プロセスとして明確化することができました。
ソフトバンクは、より公平で納得感のある選考を実現していくために、今後はこれらの知見やAI技術を活用することで、より一層学生ファーストの採用活動を体現していきたいと思います。
短期的・長期的な活用イメージは下記になります。
短期的な活用:
面接官トレーニングに今回の研究で得られたノウハウを盛り込み、講習会を通じて面接の質向上を図ります。
長期的な活用:
テクノロジーを活用し、候補者や面接官にとって価値の高い選考体験の提供を目指して参ります。
終わりに
産学共同研究の成功事例として具体的な研究プロセスの共有、そして面接官の実践知に関する研究成果と今後の展望について説明をさせて頂きました。
改めてにはなりますが、学生にとってより良い採用体験と企業にとって納得感のある採用を実現するために、引き続きの継続研究とテクノロジーを活用した選考体験のアップデートを目指して参ります。