株式会社人材研究所 代表取締役社長の曽和利光氏に聞く「コロナ危機における人事課題II」【第4回目】(前半)
2020年5月22日(金)、WEB面接サービス「harutaka(ハルタカ)」を提供するHR Tech スタートアップ 株式会社ZENKIGEN(代表取締役CEO:野澤 比日樹)は、日本初のCHRO養成講座「CANTERA」を運営する株式会社All Personal(代表取締役:堀尾 司)と共同で、新型コロナウイルス関連の緊急対応に奔走する人事担当者の悩みにリアルタイムで答える「コロナ危機における人事課題の相談所II Vol.4」を実施いたしました。
今回は株式会社人材研究所 代表取締役社長である曽和利光氏をゲストに迎え、堀尾氏と清水が参加する形で1時間のウェビナーを開催しました。
目次
オンラインで活かされるリモートトラスト
堀尾:おそらく皆さんはアフターコロナにシフトして、採用人事や事業そのものがトランスフォームしている最中ではあにかと思います。組織デザインを鮮明にすることもままならない中で、ピープルファーストでリモートか非リモートかを選ぶのは難しい問題です。曽和さんの会社ではどのように進めたのでしょうか。
曽和:うちは20人足らずの企業で、しかもコンサルティングという業態ですが、2月中旬からG-suiteを活用し、テレワークに移行しました。一部どうしても来なければいけない業務もあるのですが、基本的に通信費を5,000円払う代わりに交通費は実費精算にしています。ぼくは、さぼることより、働き過ぎのほうが心配でした。
人事コンサルティング会社なので、オンラインコミュニケーションの特徴を調べて、トライしているところですが、テキストチャットの方が実はアイデアが出やすいという話があります。そこで情報共有、報連相的なものはリアルに近いZoomで、アイデア出しはチャットを活用しています。今度メディアを作るのですが、そのタイトルもチャットで決めました。
また動画製作を内製化するために 「Adobe Premiere」を導入しました。パソコンもパワーアップし、若手社員に覚えさせています。
社内外のネットワークが維持できるようZoom飲みには5,000円払っています。Facebookグループには既に1,000人くらいの参加がありました。ぼく自身が寂しかりやなので皆寂しいだろうと勝手に想像していたのですが、ひとり上手な人とそうでない人がいますね。
堀尾:改善しつつテレワークを進める中で、大切にしていたことはなんでしょうか。教育の観点はかなり意識しましたか。
曽和:いきなりオンラインになってしまった新人の育成については、試行錯誤がありましたね。最初は新人をただ陪席させるなど、非効率なこともしていました。他にはごく普通ですが、オンラインでもできる課題を出したりしています。
皆さんもそうだと思うのですが、通常の業務は意外に滞りなく進みます。ですから業務以上に、人知れずメンタルが壊れている人がいないかどうかは、とても心配でした。ぼくはリクルートで健保のマネージャーをやっていたので、うつになる人を大勢見て来ましたから。
堀尾:経営者として判断の揺れ戻しがありながらも、さまざまなチャレンジができたのは、これまで培ってきた文化があったからこそなんでしょうか。
曽和:最近、信頼資産とかリモートトラストという言い方をしますが、社内外でリアルでのコミュニケーションやリレーションが土台になっているのは確かです。
先日、5月から人事として入社した方とお話しする機会があったのですが、直接社員と会って組織認識もできないところから仕事をしていくのは本当に大変だと思います。リアルで知らなかった人と、オンラインのままでリモートトラストといった信頼感をどのように育てていくのか。これは新たな課題になるでしょうね。
新人研修ではなく内定者教育だと考える
堀尾:評価、コンテンツ、求める資質も変わってくる中で、採用のオンライン化支援に関する事例を教えていただけますか。
曽和:WEB面接に関するノウハウは数えきれないほどありますが、一つあげるとすれば、構造化するということです。
説明会には、もうオンラインの方が集まりますね。説明会の参加者、応募者、面接を受ける人は各社とも増えています。ただ、みんな増えているということは、裏を返せば辞退率も上がるということですよね。
そろそろ、大手企業や商社は堰を切ったように最終面接をすると思いますが、その後、辞退者の続出が表面化するはずです。いろいろ手は打ってはいるものの、嵐の前の静けさという感じはあります。
堀尾:オンラインでの研修もよく課題にあがりますが、実際にはいかがでしょうか。
曽和:マナー講座であるとか、名刺の渡し方といった知識インプット系は、動画でもまったく問題ありません。むしろ、懇親会がなくなったりすることにより、本来ならあったはずのイニシエーションが失われたことの方が大きいのではないでしょうか。
20年上の先輩に「それはダメ」と言われ、ドキッとした瞬間ってありましたよね。昭和的だと言われそうですが、そのように、ちょっとずつ大人の階段を昇っていくような経験がないですね。昔からよく学生気分が抜けないと言われますが、必要なのは研修での知的インプットではなく、むしろ怖い先輩に睨まれたといったイニシエーション体験のような気がします。
結局、新人研修というより内定者教育だと考えた方がよいのではないでしょうか。よく90日間がオンボーディングに大事な期間だと言われますが、今年は5月病ではなく、ずれて8月病になる可能性はありますね。
堀尾:相互理解を深めるため、パーソナリティチェックも売れているようですね。
曽和:かなり売れているようです。ピアボーナスやパルスチェックなども、組織の状態を可視化するためのツールとして使われていますね。
どこまでコロナ前に戻すのか。分かれる判断
堀尾:コロナ対策は進んだものの、今度はアフターコロナにおいて、どこまで戻すかの判断が難しくなるのではないでしょうか。
曽和:確かにコロナへの対応は大変だったものの、強制力があったため社内の合意形成は必要ありませんでした。現状は、本来やるべきことが、コロナ禍におけるさまざまな圧力によって一気に10年分進んだ感じでしたね。
社員の方々は、おそらく人事の対応をリーダーシップの試金石だと見ているのだと思います。現在、人材紹介の登録者が増えたという話を耳にします。つまりコロナへの対応を見て、うちの会社に愛想がつきたとか。人事の考え方はおかしいと思ったという社員がいるわけです。
でも、戻すときは完全にリアルに戻すも自由ですし、テレワークのままでも自由です。もちろん絶対戻さなければならない業種もありますよね。実は採用学研究所/ビジネスリサーチラボの伊達さんのお話を聞いても、絶対リアルの方がいいようなコミュニケーションの場もあるとの見解が出ています。にもかかわらず、GMOさんやTwitterさんが今後もテレワークを決めたというニュースが流れ、ニューノーマルな働き方でないとカッコ悪いという世の中の風潮になっていますよね。そうした中で、どこに落とし所を見つけ、皆に納得させる形で、自社にとって最も合理的な働き方を推進できるかどうか。ここがポイントです。
ゴールを設定するやり方もあると思いますが、ゴールを設定した後のほうが納得させるのは大変ですよね。
ただ、今まで全く経験したことがないかと言えばそうではなくて、たとえば人事制度設計するときは、似たようなことをしていると思います。制度やルールを一つ決めなければいけないという意味では同じなので、制度設計と同様の丁寧さで意見を聞いたり、ワーキンググループをやったりすればよいのだと思います。
そこまでしてようやくローンチしても文句は出るわけですが、今回の場合もトップダウンで決めてしまうと、かなりハレーションが起きると思います。
次回の記事後半では、フリートークの様子を掲載する。
曽和 利光(株式会社人材研究所 代表取締役社長)
堀尾 司(株式会社All Personal 代表取締役CEO)
清水 邑(株式会社ZENKIGEN コミュニティプロデューサー)