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関係性認識のズレが職場の不幸に。コミュニケーション分析AIで関係性を可視化する – ZENKIGEN Lab Report 010

川崎 健寛 (株式会社ZENKIGEN データサイエンティスト)

上司・部下の関係性は、働く人にとってモチベーションに大きく関わります。退職する人の理由が職場のコミュニケーションと答える人も多い中、人事領域でコミュニケーション分析AIが注目されています。コミュニケーション分析AIの技術をプロダクトに展開しているZENKIGENのデータサイエンティストである川崎に、コミュニケーション分析AIによって何が出来るのか、どんな可能性を秘めているのかを伺いました。

コミュニケーションエラーは相互認識のズレによって起きている

ZENKIGENでのLabでは、どのような人事領域におけるコミュニケーション分析AIを研究しているのでしょうか?

職場の不幸を引き起こす「コミュニケーションエラー」という研究及び実装計画をしています。例えば、会社の中での1対1の関係として上司・部下という関係はどこの組織においてもあります。

上司としては、部下は自分を信頼しているから従っていると思っているとしましょう。しかし、部下は上司が怖いから従うしかないと思っているケースがあります。このような1対1の関係が健全なのか、不健全なのかをどうにか動画解析をして把握できないか、と考えています。

例えば、双方に信頼や尊敬がある関係かを導き出し、もし信頼や尊敬という面において満足した関係がないのであれば、パフォーマンスが最終的に下がったり、心理的安全性を部下は感じることが出来ません。また、恐怖で統制されていれば、上司に詰められた部下はメンタルにきてしまうという可能性もあります。

逆に言えば、健全な関係であれば、部下もチャレンジ出来るし、少し辛い状況でも上司が信頼できる人であればそこまでメンタルにはこないだろうと考えています。まずはこのコミュニケーションエラーという二者の関係をどのように評価できるか、ということを研究しています。最終的なゴールとして、動画・音声・心臓の動きなどから相互の関係性を解き明かしたいと思っています。

信頼・尊敬という感情はどのように計測するのでしょうか?

「社会的シグナル」「正直シグナル」と言われている分野があります。例えば、話す時に相手のスピードに合わせて話すということがありますよね。話し方をどれだけ部下が上司のリズムに合わせるかで影響力が分かったり、上司がコップを持ち上げた時に部下も持ち上げるというような真似をする行動と紐づいた心理があります。これで信頼・尊敬しているかなどはなんとなく分かるのではないかと考えています。逆に表情を出していなかったり、手振り等で相手にうまく伝えられていないことは誤解を生みやすい原因にもなります。

この研究をして何がしたいかというと、上司が部下の管理をするための情報を作るのではなく、自分の振る舞いがどうなのかを自分自身にフィードバックし、もっとこうした方がいいという気づきを得るようにしたいと思っています。

認識のズレは規範・状態・特性の3要素で起こる

二者間だけの関係性はどのように評価するのでしょうか?

二者間での満足度は当事者同士で調整をかければいいのですが、もう少し広い部署単位になった場合は個人の満足度をあげるだけではダメですね。会社は営利組織なので、全体でうまくいくのが大前提です。その中で個人にも不満が出ないことや幸福に働けるということと整合されていないといけないと思っています。

それが社名でもあるZENKIGEN(全機現)という皆が自分の力を発揮できる意味に繋がってきており、どうやって会社を全体最適にするかという思想です。なので、当事者間だけに注目するのではなく、どこまでの関係者の視点を入れるのかが研究の対象です。

コミュニケーションエラーはどのような時に起こるのでしょうか?

コミュニケーションエラーである相互認識のズレは、規範(ルール)、その人の状態、特性(性格)の3つを掛け合わせることで生じます。

例えば規範(ルール)の観点だと、上司にこうしないと認めないと言ったような暗黙のルールがあったり、会社が与えているルールがあります。つまり、マイルールと会社が与えているルールの2つなのですが、前者のマイルールはかなりクセモノです。どこの会社にもマイルールを押し付けて、会社全体のパフォーマンスを下げている人がいますよね。

東京大学の鄭先生ともディスカッションをしているのですが、これは個別のマイルールなんだと自覚している人を管理職にするのは良いと考えます。また、管理職に任命する場合は、何が会社のルールで、何がマイルールなのか。それを自覚させることが重要だと思います。

また、感情は一時的な状態です。部下が不機嫌だった時に、その人の状態がいつまで続くのかを追跡することが重要だと思っています。不機嫌であれど、次第に上司といる時にリラックス出来るようになっていれば関係性としては良好になっていると認識できます。なので、瞬間で感情や状態を切り取るのではなく、継続的に状態がどのように変わっていくかを見ていくことが重要です。

最後に、特性(性格)もかなり重要です。

採用する人材において、性格で判断する場合もあれば、能力で判断する場合もありますよね。なので、入社した後に関係性は全体を見て調和していく必要があります。

感情はその時々で変わるものですが、特性(性格)は長い時間変わらないものです。なので、各々のマイルールと特性がどのようなものかを知った上で評価をする必要があるのです。

コミュニケーション分析をAIではなく、人間がアナログで行うのでは難しいのでしょうか?

例えば、私の場合だとマイクロマネジメントされるのが嫌いで、自由度が低い時に上司と衝突します。ですが、その際にどのように振る舞っているかは自分でも分かりません。当事者が冷静に自分を理解することは難しいので、AIによる分析とフィードバックが重要であると思っています。

ポーカーというゲームがありますが、ゲームをプレイしながら相手の表情を読み解くのは素人には難しいですよね。表情に違和感を持ちつつも、それがどこから来ているのかを読み解けません。そこで、ZENKIGENが人事領域でやっているように動画解析を行い、フィードバックをしてあげて、自分では気づけない視点を提供できればと思っています。

そもそも職場のコミュニケーションとそれらが連なったネットワークは可視化されていないので、職場で何が起きているのか分かるというのが重要課題です。コミュニケーションを分析することで解決に導いていきたいと思っています。

今後のコミュニケーション分析AIの広がりと課題

コミュニケーション分析AIの今後の広がりや可能性はどんなところにありますか?

AIを人事で活用する時に、面接官のスキルアップで大きな効果を発揮します。相手の話を引き出せるような話をしているか、共感を持ってもらえるような話し方なのか等を本人にフィードバックすることができます。

また、リアルな現場でコミュニケーションの在り方を評価することは今までにあまりないんですよね。大学での研究は行われていますが、現場での運用はコールセンターのように限られた状況を評価するものが多いです。そのケースですと、クレーマーが来たときに従業員のメンタル状態をチェックするために導入されていたりします。ですが、職場のコミュニケーションはもっと双方的であり、関係も多様です。

そして、会社の中で上手くいっていない人を問題ないところまで引き上げるのか、すでに優秀な人をもっと上に上げるための投資ツールなのかで変わってきます。まずはコミュニケーションエラーが原因のメンタルヘルス課題において、職場のマイナスをニュートラルに持っていくということをイメージしています。

コミュニケーション分析AIは日本でも進んでいるのでしょうか?

コミュニケーション分析AIの研究は国内でもやっていますが、製品になっているのは圧倒的に少ないです。コミュニケーション分析AIで参考にしているのは海外です。先程の正直シグナルという研究の領域においても、コミュニケーションよりも、その人に起こっていること等の個人レベルで評価することがほとんどです。

コミュニケーション分析AIの難しさはどのようなところにありますか?

リアルな環境で動画解析をやる難しさがあります。音声であれば、周りのノイズに影響されることもありますし、Zoom等では動画を圧縮されるので画質が悪く使いにくくなるケースもあります。

また、どのようなラベルをつけるのか、つまりどのような要件で関係性が良いか・悪いかの正解データを事前に用意して学習する必要があるのも難しさの一つです。学習データをどのように作るのかというノウハウがないので、専門としていないAI系の会社は手が出しにくい領域です。ZENKIGENではデータサイエンティストだけではなく、感性工学や社会学の専門家を迎えて研究を進めています。

このようなコミュニケーション分析AIは、職場だけでなく家庭内のコミュニケーションにも活用できそうですね。

はい。関係性があるところであれば、どこでも展開出来ます。Labとしても、職場や面接だけでなく、人をどのように観測すればデータを作れるかという方法論を作り出すことができれば、横展開が可能です。

ですが、まだ人事における場で受け入れられるかどうかの問題は残っています。例えば、何かに見られていて気持ち悪いという感情を抱く人もいると思います。なので、ビジネス的に受け入れられるかの壁を乗り越えることが鍵になってきます。

大抵の場合、会社が従業員を管理するのにシステムを作ることはありますが、エンドユーザーにメリットはほとんどありません。一方的に情報を取られてしまうことになるので、その場合PoC(Proof of Concept:検証)で終わってしまうでしょう。

それを脱却するには、エンドユーザーの社員に対してどれだけメリットがあるのかを示さないといけません。ZENKIGENは単純なAIの会社ではなく、HR Techと謳って、会社の人事に入り込み、革命を起こそうとしています。

なので、すごく可能性がある一方、企業側にコミュニケーション分析AIの使い方を提案しないといけません。そのためにアルゴリズムの提供やシステム提供だけでは駄目で、エンドユーザーである社員の気持ちも考えた上で、どのように使うか、メリットを提供しないといけません。

エンドユーザーにはどんな良い影響がありますか?

少し振る舞いを変えるだけでコミュニケーションがよくなることですね。人間が一緒に活動する中では、些細なことで状況は良くも悪くもなりえます。もちろん、やってみるまで分からないし、時間のかかることかもしれません。なので根気を持って革新を進めていくのが私たちのミッションだと思っています。コミュニケーション分析AIによる会社組織のイノベーションに強い関心のある企業様と是非一緒に改革を進めていきたいと思います。

川崎 健寛(株式会社ZENKIGEN データサイエンティスト)

大学院時代は海底資源の開発を行い、調査航海で約1ヶ月間乗船し、研究資料のサンプリングなどを行う。データサイエンスプログラムの受講を機にキャリアを転向。前職のAIコンサルティング企業では、大手通信会社のマーケティング分析、住宅メーカーの画像解析、新規プロダクト研究開発におけるテキストデータ解析など様々なデータの分析に従事。ZENKIGENでは、面接の動画データの解析システムのアルゴリズム開発を担当する。

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