ダイバーシティーマネジメントとは?日本企業の現状や導入企業について解説
「ダイバーシティ」という言葉はますます注目を集め、耳にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。しかし、日本でのダイバーシティー推進にはまだまだ課題があるのが現状です。本記事では日本企業におけるダイバーシティーマネジメントの現状やダイバーシティーマネジメントをうまく取り入れている企業の事例などをご紹介します。自社でダイバーシティを推進したいが、どのように進めたらいいのか悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。
目次
ダイバーシティーマネジメントとは
個々の人材の持つ多様性(diversity)を活かすことで組織力を向上させるアプローチのことです。
ダイバーシティ(diversity)とは多様性という意味で、ビジネスにおいては「個人や集団の間にあるさまざまな違い」という意味で用いられています。
ダイバーシティには「表層的ダイバーシティ」と「深層的ダイバーシティ」の2種類があります。表層的ダイバーシティは、性別、年齢、人種・民族、障がいなどが含まれます。深層的ダイバーシティは、性格、考え方、宗教、趣味、職歴、スキル・知識、コミュニケーションスタイルなど、さまざまな内面の特性が含まれます。
日本におけるダイバーシティーマネジメントの現状
では、日本におけるダイバーシティーマネジメントの現状はどのようなものなのでしょうか。今回は、「女性活躍」「障がい者雇用」「外国人雇用」「性的マイノリティ」の4つの観点からダイバーシティーマネジメントの現状について考えていきます。
女性活躍の現状
政府では、2003年に「2020年までに、社会のあらゆる分野において指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度となるよう期待する」という目標を掲げました。しかし、帝国データバンクが2021年7月、全国2万4285社を対象に実施した「企業の女性登用に関する調査」では、女性管理職の割合は前年比1.1ポイント増の8.9%であり、目標未達という現状になっています。
障がい者雇用の現状
厚生労働省の「令和2年 障害者雇用状況の集計結果」によると、法定雇用率 2.2%に対して、法定雇用率達成企業の割合は 48.6%と半数を切る結果となっています。
2021年3月1日より、民間企業における障がい者の法定雇用率が2.2% から2.3%へと引き上げとなりました。この制度改正により、積極的な障がい者雇用の後押しとなる可能性があります。
外国人雇用の現状
厚生労働省の『「外国人雇用状況」の届出状況(令和2年 10月末現在)』によると、外国人労働者数は1,724,328 人で、前年比 65,524 人(4.0%)増加し、平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高を更新したが、増加率は前年 13.6%から 9.6 ポイントと大幅に減少しています。
特に「宿泊業、飲食サービス業」等において対前年増加率が低下して おり、新型コロナウイルス感染症の影響等により雇用状況が厳しくなり、 外国人労働者についても影響が生じていると考えられます。
性的マイノリティの現状
2019度に厚生労働省委託事業として三菱UFJリサーチ&コンサルティングが企業2,388社に行ったアンケート結果によると、性的マイノリティに対する配慮や対応を意図した取組の実施有無について、「実施している」と回答した企業は10.9%に留まっています。
「同性愛者や両性愛者、トランスジェンダーなど、性的マイノリティやいわゆる LGBT と呼ばれる人が社会にいること」を知っているかどうかという設問に対して、「多少は知っている、聞いたことはある」と回答した企業は 93.0%であり、性的マイノリティについて認知はされているものの具体的な取り組みは進んでいないのが現状ということがわかります。
ダイバーシティーマネジメントのメリット
では、ダイバーシティーマネジメントを取り入れることでどのような効果があるのでしょうか。ここではメリットとデメリットについてご紹介していきます。
優秀な人材の確保
少子化による労働人口の減少により、多くの企業にとって人手不足は深刻な課題です。時短勤務で働きたい人、外国人、障がいのある人、高齢者など、これまでの条件から間口を広げた人材募集を行うことで企業はより多くの採用チャンスを得ることができ、優秀な人材を確保することができます。
また、柔軟な雇用体系や制度を設けることで、現在働いている従業員のライフステージ・価値観の変化に対応でき、離職を防ぐことができます。
イノベーションの創出
属性の近いメンバーだけでは多角的な視点を持ったアイディアは生まれにくい傾向にあります。異なるバックグラウンドを持った多様な人材が知識・アイディアを持ち寄ることにより、イノベーションが生まれることが期待されています。
グローバル化・市場の多様化における競争力の強化
個々の人材の持つ多様性を活かすことで、前例のない困難な課題に様々な視点から取り組みやすくなります。あらゆる属性の顧客を理解し、価値を創造していくためにダイバーシティーマネジメントが求められています。
ダイバーシティーマネジメントのデメリット
コミュニケーションの対立
「利益重視」のような従来では画一的だった価値観に、多角的な観点を追加した際に、何を重要視すべきかといった対立が生まれることがあります。また、多様な人材が集まることで、文化やコミュニケーションスタイルの違いにより、円滑なコミュニケーションに支障をきたす可能性があります。
チームパフォーマンスの低下
メンバーの多様性に合わせた業務のやり方や雇用体系を整備したものの、全体の統率がうまく取れない場合、チームのパフォーマンスが低下する可能性があります。多様性の活用と全体のバランスを考えた業務プロセスの設計が必要になります。
意思決定スピードの遅れ
多様な意見が生まれることにより、調整が上手くいかないことでコミュニケーションに時間がかかり、意思決定スピードに遅れが生じる可能性があります。意思決定プロセスを明確にし、メンバーに共有することで納得感が生まれやすくなります。
ダイバーシティーマネジメントを企業に導入するポイント
1.メッセージの明確化
自社のダイバーシティーマネジメントの方針を定め、メッセージを発信していくことで従業員やステークホルダーにダイバーシティマネジメントの考えを浸透させることができます。
2.多様な人材が活躍できる環境の整備
人事制度や勤務環境の整備、従業員向けの研修などを実施し、多様な人材が活躍しやすい組織体制を整えていきます。具体的には、多様な人材の採用計画の策定、勤務時間や場所の柔軟化、キャリア育成のための教育・研修の拡充などが考えられます。
3.多様な人材の活躍を価値創造につなげる
個々の人材の活躍を、企業としてのイノベーションにつなげるための施策を行っていきます。具体的には、コミュニケーションを活性化するための施策を提案することや、ダイバーシティ推進の進捗・成果を社内外へしっかりと発信していくことなどが挙げられます。また、多様な価値観があることを前提に考えた情報共有・意思決定プロセスの設計が求められます。
ダイバーシティーマネジメントが成功している企業事例
P&G
P&Gでは、経営戦略の一環として「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性の受容と活用)」を掲げ、多様な社員一人ひとりが能力を最大限に発揮できる組織作りを目指しています。
2013年には女性管理職比率30%を達成し、2020年には女性管理職比率48%を実現しています。また、社内のノウハウを生かし、2016年に社社外啓発組織「P&G ダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクト」を発足。外部講演やシンポジウムへの登壇、研修プログラムを社外に無償提供することでダイバーシティ&インクルージョンの啓発を推進しています。
三井住友銀行
三井住友銀行では、ダイバーシティ&インクルージョンをSMBCグループの「成長戦略そのもの」と位置づけ、頭取を委員長、各事業部門の統括部・経営企画部・人事部のトップを内部委員とした「ダイバーシティ推進委員会」を設置し、推進しています。2017年には、「同性パートナー登録」により、配偶者や家族等を対象にした福利厚生制度の利用が可能になるよう、就業規則の改定が行われました。
ダイバーシティーマネジメントで組織力を向上させよう
記事では日本企業におけるダイバーシティーマネジメントの現状やメリット・デメリット、導入企業の事例などをご紹介しました。ダイバーシティーマネジメントはすぐに結果が出る取り組みではありませんが、優秀な人材確保や市場の多様化への対応といった課題への解決の糸口となります。