株式会社マネーフォワード 執行役員 人事本部長の服部穂住氏に聞く「コロナ危機における人事課題」の実情【第7回目】(前半)
2020年5月1日(金)、WEB面接サービス「harutaka(ハルタカ:https://harutaka.jp/)」を提供するHR Tech スタートアップ 株式会社ZENKIGEN(本社:東京都千代田区、代表取締役CEO:野澤 比日樹)は、日本初のCHRO養成講座「CANTERA」を運営する株式会社All Personal(本社:東京都港区、代表取締役:堀尾 司)と共同で、新型コロナウイルス関連の緊急対応に奔走する人事担当者の悩みにリアルタイムで答える「コロナ危機における人事課題の相談所Vol.7」を実施いたしました。
今回は株式会社マネーフォワード 執行役員 人事本部長の服部穂住氏をゲストに迎え、堀尾氏と清水が参加する形で1時間のウェビナーを開催しました。
目次
採用:面接は情報提供の場と考える
マネーフォワードさんは在宅勤務に合わせ、3月中旬から採用を完全オンライン化されたそうですが、現在、実感値としていかがでしょうか。
服部:切り替えて2か月弱なので、まだ検証が浅く、実感値を持つのはこれからだと思っています。ただ面接官や、入社された方からネガティブな感想は聞こえておりません。
オンライン面接で工夫されているポイントを教えてください。
服部:オンラインでは見極められないのではないかとの質問をよくいただきますが、そもそも人が人を見極めること自体が難しいと考えています。当社では、採用は“相互理解の場”だと考えています。もちろんジャッジはしますが、大切なのは適切に情報を提供し、適切に情報をいただくことです。
そこで当社は、マイナスをプラスに変える発想をしました。オンラインになったことで、これまで以上に気軽に候補者のニーズに合わせてお会いする社員を選択し、より深い情報提供ができるようになりました。オンラインだと面接官の入れ替わりや、面接の時間や日がまたぐことに対する違和感も少なくなり、アレンジの幅が広がります。
一方、特に新卒採用がそうなのですが、面接に参加される方のネットワークの環境やオンライン慣れしているかにより、コミュニケーションのスムーズさが大きく左右されます。そこで面接官にはテンポといったコミュニケーション対応より、質問に対して答えた内容を優先してジャッジをするようにとお願いしました。
服部さんは人事と、経営陣の視点の2つをお持ちです。双方でコロナに対する認識を摺り合わせるようなことはありましたか。
服部:「何のために採用をやっているのか」という本質をぶらさないことが大事だと思います。「オンラインにすると採用の基準が甘くなるのでは?」との懸念もある一方で、当然メリットもあると考えています。
採用競争力を上げるためには採用を止めるのではなく、今できる最善を尽くした方が経営にとってもよいと思います。人材がほしいという現場に対して、早く採用できるメリットもあると思います。どうしてもこういう時は事象を一面的に捉えがちです。ですからいろいろな角度から物事を捉えた上で、こうするといいんじゃないですかと提案するように工夫しています。
コロナ対応:「事態が落ち着いたら」はNG
マネーフォワードさんでは、採用スケジュールは変えておられないとのことですが、当初リアルで採用を行う計画もあったのですね。
服部:コロナ対応に関して当社の人事としてポリシーにしていることの一つに、“落ち着いたら”をNGワードにするというものがあります。
3月ごろ、チャットや人事内の会話で「落ち着いたらやりましょう」とか「落ち着いてから考えましょう」という言葉がすごく増えたなと感じました。でも、いつ落ち着くかなんて分かりません。そうした時期の定まらない先延ばしに対し、強い危機感を感じたので“落ち着いたら”を NG ワードにして、最善を尽くし今できることをすべてやりましょうとお願いをしました。ですから、今人事としてやるべき事に関して、採用含め、先に延ばしたところほぼありません。当然クオリティが落ちている部分はありますが、今できるベストでやっています。
研修をオンライン化されるにあたり、コンテンツは変更されましたか。
服部:変えていません。もともと内製で進めている会社だったので、これまでのコンテンツをオンライン化しました。
オンライン化によってメリットに感じた点があれば教えてください。
服部:1点目のメリットは、場所に縛られないので、何人でも集まれることですね。新入社員は45人いるのですが、1つのルームで一気にコンテンツを提供できるようになりました。
2点目は、新入社員の研修内容の見学が容易だという点です。今までは、配属先のメンターに、よければ研修会場に見にきてくださいねと声をかけていたのですが、オンラインになったことでZoomのリンクを伝えるとたくさんの方が気軽に参加してくれます。現場も研修の様子が分かりますし、受講者も運営も参加してもらえるとうれしいし、いい意味で緊張感が生まれました。
社員のケア:コロナは心理的事象と捉える
かつて、これだけ在宅勤務が長期間続く状況はありませんでした。そうした状況に対する会社の考え方や社員と接する上で大事にしていることを教えていただけますか。
服部:まさに当社の人事としてのポリシーの2つ目がそれで、「コロナは心理的事象」だということです。コロナそのものは病理的事象つまり病気なのですが、結果としてウイルスの影響が在宅勤務を生んだり、情報を氾濫させたり、これまでのコミュニケーションを制限したりと、大きな不安を生んでいます。つまりコロナにより病気にかかること以上に、私たちは心理的に蝕まれていると捉えています。そこで人事としては、社員の心理的な事象であるストレスを取り除くことが軸になります。具体的には、社員一人ひとりの状況を把握し、コミュニケーションし、情報を吸い上げることに注力しています。
当社はもともと1on1で上司が社員と直接話すことを大切にしてきました。ですから「オンラインだから先延ばしにするのではなく、むしろマメにやってください。定例ミーティングなど顔を合わせる場所を多く持ってください」と声をかけています。
在宅勤務が継続する中で、調子の悪い方も出ていますか。
服部:調子の悪い人についても、順応している人についても、その双方の情報が入ってきます。ただ、調子の悪そうな人に対し、上司も、人事もどう対処すれば正解なのか分からないというのが本音です。だからこそ、「何かあったらすぐに言ってください。答えはないけどみんなで考えましょう」という姿勢でやっています。
在宅勤務に対応できる方とそうでない方の違いは、どんなところにあるのでしょうか。また会社側でカバーできると思われますか。
服部:PC・ネットワーク環境、間取り、あるいはご家族構成といった、家庭の環境に左右されている面も大きいのではないでしょうか。ただ多様すぎて、結局一人ひとりと向き合うしかないと考えます。そこでコミュニケーション活性化の手段としていくつか施策を打ちました。最初に行ったのがオンライン飲み会ですが、夜の実施時間帯だと家族のいる方は参加しづらいようですね。ではランチ会ならどうかと言えば、お子さんのいる方はお昼ご飯を作ったり一緒に食べたりしなければいけないといった具合にそれぞれの事情が異なります。つまり、社内の活性化もパッケージとして提供するのではなく、ヨガや体操といった家族で参加できたりするものを企画するとか、朝できること、夜に参加できることと、さまざまな接点を作るよう工夫しています。
社員のケア:テレワーク手当をリリース
新たに導入した制度はありますか。
服部:「テレワーク手当」をリリースしました。先ほどもお話したように、社員から自宅に椅子がない、デスクがないといった声があがってきたのですが、物理的な問題は解決するしかありません。そこで経営陣で相談し、一律手当を支給することに決めました。
情報収集:一次情報を大事にする
最近人事を始められた方もいると思います。コロナに直面し、どのように情報を取得されましたか。
服部:情報があふれていて何が正しいのかを判断するのが難しく、情報を知れば知るほどに不安になるので、一次情報を知るよう努力しました。たとえば感染現場にいる医療従事者のオンライン講演を受講したり、過去の感染症や疫病がもたらした歴史的事実に関する本などを読んだりするぐらいですが、自分で仕入れた情報をもとに自分の頭で考えるのはすごく大事だと思います。
情報収集する場合は、こういう場も含めて、背景を聞いたり、疑問を解消できたりするようなやり方が有益だと思います。コロナ対応に関しては、助成金一つとっても調べることがとても多いと思います。ただそういった調べる手間などは、進んでいる他社から知見をもらうことで解消するだろうなと感じています。
お話を伺っていると、社員を管理するというより、働きがいや働きやすさをいかにバックアップしているかとの視点で、動いていらっしゃるように見えますね。
服部:当社は「Let’s Make It!」というキャッチフレーズを大事にしているのですが、みんなで作っていこうという風土がありますね。ですから制度に縛りつけるのではなく、考えたアイディアに対してもみんなから意見をもらいながら良くしていきましょう、という姿勢でやっています。人事も同様で、みんなで一緒に作っていこうという姿勢が軸になっています。
次回の記事後半では、フリートークの様子を掲載する。
服部 穂住 (株式会社マネーフォワード 執行役員 人事本部長)
堀尾 司 (株式会社All Personal 代表取締役CEO)
清水 邑 (株式会社ZENKIGEN コミュニティプロデューサー)