さくらインターネット株式会社 代表取締役社長の田中邦裕氏と人事部マネージャーの矢部真理子氏に聞く「コロナ危機における人事課題」の実情【第3回目】(後半)
2020年4月17日(金)、WEB面接サービス「harutaka(ハルタカ:https://harutaka.jp/)」を提供するHR Tech スタートアップ 株式会社ZENKIGEN(本社:東京都千代田区、代表取締役CEO:野澤 比日樹)は、日本初のCHRO養成講座「CANTERA」を運営する株式会社All Personal(本社:東京都港区、代表取締役:堀尾 司)と共同で、新型コロナウイルス関連の緊急対応に奔走する人事担当者の悩みにリアルタイムで答える「コロナ危機における人事課題の相談所Vol.3」を実施いたしました。
今回はさくらインターネット株式会社 代表取締役社長である田中邦裕 氏と、管理本部 人事部マネージャーである矢部真理子 氏をゲストに迎え、堀尾氏と清水が参加する形で1時間のウェビナーを開催しました。
前回の記事前半ではリモートワークにおけるコミュニケーションや新入社員の迎え入れる方法について話が進んだ。記事後半では、フリートークでの質疑応答の詳細についてお伝えする。
今回のフリートーク内容
Q1. ビフォア・コロナとウィズ・コロナでは、採用手法のステップや選考基準に変化はありますか。
田中:担当が全国にいる関係で、もともとオンラインが多かったため、あまり変化はありません。また、われわれは積極的にオンラインで説明会、面接を実施しているので、他社で面接を受けられず不安を感じている方にも受けていただいています。
矢部:基準は特に変えておらず、変えたのは手段だけですね。新卒の説明会も3月上旬から週に2回ほどZoomで行ってきました。中途の面接に関しても、すべてオンラインで行っています。選考ステップもコロナ前と同じです。
Q2. オンラインで内定を出していますか。オンラインとオフラインでは見るべきポイントに変化はありますか。
矢部:内定を出しています。当初はオンラインだと空気感や雰囲気が伝わってこないかもと、悩みました。ただ、面接の初心にかえり、今までの経験などを深堀することにより、“人となり”や、その人の持つ価値観や将来のビジョンが浮き上がってきます。同時に、オフラインでお会いしないと判断ができないと思っていたのは、自分の認知の問題であり、面接で陥りがちなエラーではないかと感じるところもあります。
田中:これからは全員オンラインでやった方がよいのではと思っています。今まで、なんとなくいいなと感覚で判断していた部分を、形式化しなければいけない時期が来たのかもしれません。ですから、バイアスを排除するために見た目や学歴を除いて面接した方がよい側面もあると思います。
堀尾:同感です。オンラインに不慣れが故、オンラインだと採用できない理由を見つけている節がある。最初に雰囲気でこの人は良さそうな人だなという印象を持ってしまうと、残りの時間帯はそれを正当化するために確認をするために費やされてしまいます。その部分がオンラインによって払拭されることにより、採用のミスマッチがなくなっていいと思います。
Q3. ネガティブな評価や査定もオンラインで実施されていますか。その場合、どこに気をつければよいでしょうか。
田中:むしろオンラインの方がよいと思います。ネガティブとは言え、対等な人間関係の上に成り立つわけで、会社に呼び出すのは申し訳ないという気持ちがあります。そもそもネガティブではあるものの理由が明確ではないと感じる場合は多いのですが、オンラインベースになると面談の頻度が上がるので、そのあたりが払拭されていきます。とは言え、本当にこじれてしまった場合は、オフラインで対応せざるを得ない場合もあるかもしれません。
矢部:在宅勤務になってから、実際にネガティブなフィードバックを行いました。オフラインの場合は、相手の様子を伺いながらその場でうまく調整するという部分もあったのですが、オンラインになってから綿密に準備をするようになりました。当社のValueである「肯定ファースト」と「伝わるまで話そう」に基づき、相手を肯定した上でネガティブなことも伝え、最後にまた肯定するようにしています。すると事前の準備と相手を尊重することにより、「言ってもらえてよかったです」と意外と明るく追われることも多いですね。
Q4. 労働環境で最も気を遣っていることはなんでしょうか。
矢部:やはり第一は社員の健康です。その上で、在宅勤務の心配な点として「働きすぎる」「孤独になる」「サボる」の3つがあると思うのですが、当社は「社員を信じる」「性善説でやる」という基本方針に基づいているため、サボることは心配していません。そこで、最初の2つに関することを聞きたいと思いパルスサーベイを始めました。
Q5. 子育て世代の在宅勤務にはどのような対応をされていますか。
田中:当社は7時~21時の間で働く時間をシフトすることができるので、それぞれが工夫しています。また、午後半休など、時間有休を利用している人や、タイムカード上で“外出”にしている人もいます。
矢部:在宅勤務が続くと、真面目な人ほど休憩せずに働きすぎてしまう傾向があります。会社に出社していれば、自然と雑談したりコーヒーを飲んだりというちょっとした休憩がとれているのです。人事部では、1時間休憩にプラス30分を余白の時間としてメンバーが適宜リフレッシュできるスタイルを実験しています。成果を感じれば広げていこうと思っています。
Q6. 入社を希望する人から、会社の雰囲気を知りたい、会社を見たいとの要望がある場合、どのような対応をしていますか。
田中:これまでも社内の様子をVR動画を撮るなどしてきました。リコーの360度カメラTHETAはきれいに撮れるし、YouTubeにもあげられます。そうした技術を使って、人事の方が雰囲気のわかる動画を撮るなど、やれることは多いと思います。
そもそも会社に行かなければムリだという人は、当社とはご縁がなかったと考えた方がいいようにも思います。対面重視の会社を否定するわけではありませんが、当社ではテクノロジーの活用を大切にしていますので、価値観が異なるかもしれません。採用したい人を採れないことより、採用してはいけない人を採る方が人事上のリスクになりますから、今後は、採用基準の一つのリトマス試験紙になるのではと思います。
Q7. リモートワークになってタテの関係以上に、ヨコや斜めのコミュニケーションが難しいという話を聞きます。事業部長クラス間での調整などはどうされていますか。
堀尾:圧倒的に情報が少ないと思います。マネージャーがリモート上でのコミュニケーションに長けているわけではないので、利害関係のない斜めのレポートラインの中で、情報共有量を増やすことが求められます。そのためにチャットツールなどを活用して情報を見える化し、隣の部門はどんな状況なのかをある程度推測できるようになるのが理想です。
田中:コミュニケーション不全は、リモートワークで顕在化した最も大きな問題だと感じます。ただオンラインだからではなく、以前から潜んでいたと思うんです。
「功ある者には禄を与えろ(徳のある者には地位を)」と西郷隆盛は言いましたが、エースは出世させるより給与を高めた方がいいし、リーダーやマネージャーは逆に出世させた方がいい。エースが出世する弊害はすごく大きいと思います。
本来、部下のために寄り添える人を上に配置するヒエラルキーにした方が効率的です。部下のためにと動ける人、ほかの部門のためにコミットしたいと考える人を上にする形になっていれば、リモートになっても困らないはずです。しかし頭で理解していても一足飛びに変えるのは難しい。そこで部下のために動くタイプの人同士を縦横無尽につなげているのが今の日本の姿なのだと思いますが、やはり社員のことを思い、お客様のことを考える人が上に上がるよう構造的に変えていかなければと思います。
当社の場合、部下を支援し、ケアできる人が管理職に就けるよう社員を入れ替えてきました。「肯定ファースト」「リードアンドフォロー」「伝わるまで話そう」と3つのValueを決めているのですが、それを体現できる人を出世させなければいけません。とは言え、どこの会社でもできることではないので、コミュニケーションが上手で、部下のために、周囲の部署のためにと頑張る人をレポートラインとしてつないでいくのが当面、具体的な施策かなと感じています。
Q8. 最後に人事の皆さんにメッセージをお願いします。
矢部:人事の皆様にとって、とても大変な状況が続きますが、会社の垣根を越えてお互いに情報交換しながら乗り越えていければと思っております。またこういう時こそ人事は安心安全な環境づくりをしながらも、明るく元気に振る舞っていきたいなと考えています。
田中:人事は会社の中で最も制度や給与のシステムなどにアクセスできる立場です。それを最大現に生かすことと、経営者とのリレーションをいかに強くするかということの両方が求められると思います。
他社の人事の方とお話すると、よく社員の管理であるとか、社員に問題が起きた時の対応について質問されるのですが、ご自身も社員なわけです。楽しく仕事ができればいいはずなのに、残念ながら逆方向に振る舞う方が多いと感じます。
そうではなく、人事とは自分も含め、社員も経営者も楽しく明るく仕事ができる環境を作る立場にいるということを、最後にエールとして送ります。
田中 邦裕(さくらインターネット株式会社 代表取締役社長)
矢部 真理子 (さくらインターネット株式会社 管理本部 人事部マネージャー)
堀尾 司 (株式会社All Personal 代表取締役CEO)
清水 邑(株式会社ZENKIGEN コミュニティプロデューサー)