

発言内容もデータ分析する時代へ。JFE商事がAIで進める「見極め力」のアップデート
課題は「見極め力のばらつき」だった

今回、面接品質改善サービスである『harutaka BI(ビジネスインテリジェンス)』を導入するに至った背景を教えてください。
三谷さん:JFE商事株式会社(以下、JFE商事)では、2020年から「harutaka(ハルタカ)」を導入し、『harutaka EF(エントリーファインダー)』を活用した動画選考とWeb面接の実施を行っています。商社において「人」は最も重要な要素であり、動画データの活用が「人」の適切な見極めにつながると考え、導入をしました。
より良い採用を目指した選考プロセスの改善を進める中、面接官によって評価にばらつきがあり、応募者の能力を適切に見極めることができていない可能性を感じることがありました。後続の面接官と評価が異なるケースが発生していたからです。
面接は基本的に人事部が担当しますが、人材育成を目的としたジョブローテーション制度により、人事部内でも定期的な異動があります。そのため、人事部へ異動し、初めて採用面接を担当する方も少なくありません。毎年一定の頻度で面接官が入れ替わるため、応募者の能力を適切に見極めるためにも、面接官による評価要因を可視化し、課題があれば改善する必要がありました。
そこで導入したのが『harutaka BI』です。このサービスでは、面接動画をAIで解析・分析することで、面接官の発言や振る舞いを定量化することができます。より公平でブレのない評価を実現するには、面接傾向の可視化が欠かせません。そこで、『harutaka BI』の分析結果から面接官の見極め力を向上させるためのヒントが得られないかと考えました。
面接官の発言や振る舞いなど、個々の面接官に注目することになったきっかけを教えてください。
三谷さん:適切な評価を行うために、評価項目の見直しなどについてはすでに取り組みを行っていました。しかし、ZENKIGEN担当者から『harutaka BI』の提案を受ける中で、面接官ごとの面接の進め方や評価根拠にばらつきが出ているかを知ることも重要だと思い、個々の発言や振る舞いに注目する分析および改善に向けた取り組みを行うことにしました。
面接官の見極め力のばらつきは、採用にどのような影響を与えますか?
三谷さん:一番は、機会損失です。本来なら採用すべき自社にとって優秀な応募者を見逃してしまいます。「内定承諾率の向上」も大切ですが、内定を承諾するかどうかは最終的には応募者の判断に委ねられてしまうため、私たちとしてはまず、「採用すべき人材に内定を出せているか」 を重視し、面接官の見極め力を向上させたいと考えました。
今回、『harutaka BI』の導入にあたり、特に期待していたことはなんですか?
三谷さん:定量データだからこその説得力です。これまでの面接官向けの社内研修に加え、第三者による客観的な定量データを活用することで、共通認識を醸成し、具体的な改善につなげられたらと期待しました。
発言内容の定量データから見えた面接官の傾向とは

今回実施した分析内容について、簡単に教えてください。
三谷さん:当社の面接を担当する面接官を対象に、発言内容から面接の進め方や評価の傾向を調査しました。面接を合格した応募者の面接において、「どのような会話が行われているのか?」「深掘りの回数はどの程度だったのか?」「評価項目に沿った質問が適切に行われているか?」などを各面接官の発言内容から分析した上で、最終面接の評価と比べ、どの程度のばらつきがあるかを定量化しました。
分析結果から、どのような傾向が見えましたか?
三谷さん:例えば、採用チームで用意した設問はどの面接官も深掘りができていましたが、深掘りの仕方には面接官によってばらつきがあると分かりました。発言データを分析した際に、面接官の興味のままに話を進めてしまったり、話題が逸れたままで質問を続けてしまったりと、応募者のコンピテンシーを十分に引き出しきれていないケースが明らかとなったからです。この分析結果から、私たちが仮説として立てていた課題がデータによって裏付けられ、面接のあり方を見直すきっかけになりました。
一方で意外だったのは、応募者の評価において、面接官歴よりも、その面接官のJFE商事での経験や所属歴が影響していた点です。JFE商事でのキャリアが面接に影響を及ぼしているというのは、私たちの仮説とは異なりました。ただ見方を変えると、各々の面接官軸での評価や判断にもなりかねないため、会社が求める人物像をどのように見極めていくかを共通の認識が持てるように面接官へ伝えていく必要性を感じました。
今回の分析結果を振り返り、面接官の発言内容を定量的なデータで可視化することに、どのようなメリットがあると思いますか?
三谷さん:データで可視化することにより、面接官による評価根拠の客観性を高めるということが、定量化のメリットだと考えています。定性的な評価では人によって感覚が異なるため、判断基準にばらつきが生じやすく、「本当にこれで正しいのか?」と疑問が残ることも少なくありません。その点で、定量的なデータは評価根拠を客観的な「揺るぎない事実」として示すことができ、評価の一貫性を高めることができます。
さらに、データの見せ方を工夫し目的に沿って適切に整理することで、より説得力のあるアウトプットを生み出せるのも、定量的なデータならではのメリットではないでしょうか。
JFE商事は自社でもDXに向けた取り組みをしていると伺いました。その中で、ZENKIGENに支援を受ける価値は何だと思いますか?
三谷さん:ZENKIGENのサポートを受けることで、社内での説得材料をより具体的に示せるのは大きな価値だと考えています。面接の評価指標やプロセスの見直しを進める際に、客観的なデータをもとに説明できるため、社内の納得感が高まり、スムーズな改善につながります。
また、単にデータを提供するだけでなく、「どのような面接をすべきか」という具体的な改善策まで踏み込んで解説してもらえる点も、ZENKIGENの支援ならではの価値です。分析結果を実際の行動につなげられるサポートがあるからこそ、実効性のある改善ができると感じています。
進む、社内のAI活用。 推進で大事にしたいのは「今を疑い、本質を見極めること」

面接官の見極め力を高めるために、今後JFE商事としてどのような取り組みや挑戦を行っていきたいですか?
三谷さん:定量的なデータを活用し、より体系的な取り組みを進めていきたいと考えています。具体的には、面接における判断基準を明確にするガイドラインの作成や研修の実施です。例えば研修では、単なるロールプレイ形式ではなく、面接官が面接の目的や評価を深く理解できるような内容を想定しています。こうした取り組みを通し、1人でも多くの面接官が、客観的な視点を持ちながらも、今以上に応募者に誠意を持って向き合える環境づくりを目指します。
貴社の取り組みを進めるにあたり、ZENKIGENや『harutaka』にどのようなサポートや期待をされていますか?
三谷さん:AIの業務活用は社内でも関心が高まっており、ZENKIGENには、人材の特性をより明確にし、企業と最適な応募者をつなぐ役割を担ってもらえたらと考えています。
また、企業ごとの特性に合わせたAI活用が進めば、より精度の高い採用につながるはずです。例えば、JFE商事に適した機械学習モデルを構築することで、活躍が予想される応募者の特性や求めるスキルを明確にし、書類選考の精度向上を目指せることを期待しています。
最後に、よりよい採用の実現に向けて、面接に課題を抱える企業やそのご担当者様に向けて一言メッセージをお願いします。
三谷さん:面接の評価は、どうしても個人の感覚に左右されがちです。だからこそ、自身の判断を信じつつも、「本当に適切な評価ができているのか?」と疑い、問い続ける姿勢が大切だと考えています。今回、面接官ごとの評価のばらつきをAIで定量化できたのも、その積み重ねの結果でした。
新しい取り組みを進める際には、推進者自身が納得できることが重要です。今回、『harutaka BI』を導入したのも、「採用にAIを活用するのは正しい」と私自身が確信できたからです。その一方で、偏りを避けるために、多角的に情報を収集し、冷静に分析した上で判断しました。
採用に限らず、日々の業務を振り返ると、AIを活用することで効率化できる業務は多くあります。例えば、議事録や面接所見の作成などです。「これは本当に人がやるべき仕事なのか?」と見直すことで、面接官が本質的な業務に集中できる環境が整い、結果としてより良い採用につながると思います。
ぜひこの機会に、社内の状況を客観的に見つめ直し、AIによるデータ活用の必要性について考えてみてはいかがでしょうか。ご自身の判断を信じつつ、より良い業務の実現に向けて、一緒にAI×採用の新しい形を考えていけると嬉しいです。
撮影場所:WeWork 城山トラストタワー 共用エリア