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AI面接サービス開発秘話、録画データをどう取得し、どう評価するか – ZENKIGEN Lab Report 009

小荷田 成尭 (株式会社ZENKIGEN データサイエンティスト)

前編はAIに面接を任せるリスクやバイアスまみれのAI面接を生み出さないために必要なことを小荷田氏にお話いただきましたが、採用でデータを取得するためには何をすればよいのでしょうか。エントリー動画のAI活用の実例・取り組みも含めて、ZENKIGENでラボ組織の立ち上げに関わっている小荷田に伺いました。

>前半記事 ZENKIGEN Lab Report 008 はこちら

今後キーになるのは、原因データ

入社後に活躍するかをウォッチしていくことが大事であると言われるなかで、AI採用のためにどんなデータを取っていくとよいのでしょうか?

世の中的には、パフォーマンスの評価データを大事にしましょうとなっています。ただ、人が人を評価しているデータは、結果データです。

なぜそのパフォーマンス評価になったのか、という間のデータが抜けてしまっています。Slackのやり取りや、360度評価、お客さんからの評価など、普段この人はコミュニケーションネットワークの中でどういう発信をしている人なのか、それがどうしてパフォーマンスに紐付いているのかという、原因データと結果データをちゃんと取らないといけません。

どうしてもハイパフォーマーはパフォーマンス評価データのみを使ってしまいますが、原因データのほうがこれからはキーになるんじゃないかと思っています。

例えば、ある会社のイノベーション部門は社内評価ではなく、VC・ベンチャーからの評価を360度評価にいれています。それが画期的なのは、やはり同じ部門からは身内の話になってしまいますが、あえて周りの評価を入れて、イノベーション部門としてのアイデアが正しいかどうかを判断しているんですよね。

今後いろんなデータを集めていきますとなったときに、AIに何を判断させて、何を判断させないのが良いのでしょうか?そして人間は何を判断すべきなのでしょうか?

基本的には人間の本質として、自分が決定したこと以外何も責任が取れないんですよ。例えば、AIにこう言われたからといっても、うまくいかないんです。まず決めるのは人間がやったほうがいいです。でないと、誰も責任を取らない形になってしまう。ですが、選択肢を作るのはAIが一部やってもいいんじゃないかと思います。

例えば、誰かにプレゼントをあげようとして、相手の情報を全部知っているAmazonのAIが勝手に発注してくれるのは嬉しくないじゃないですか。送る側として「3つの選択肢だったらどれでも喜ばれるならどれがいいですか」と人間に選択させたほうがいいですよね。

選択するというのを残しておかないと誰も責任を取らないし、AIが暴走しても誰も気にも止めないということが起こってしまいます。ただ、多い選択肢から選ぶ場合は難しいので、大量のパラメータがあった場合はAIのほうが強いんです。ある程度の数まで絞るのをAIにおまかせして、そこから人間が選ぶというのが正しいと思います。

AIだけでやる、というのは早すぎるんじゃないかと思っていて、調和してどっちかに任せる、もしくはアナログで頑張るというのをやっていく必要があります。

エントリー動画のAI判定によって出てくる、採用基準の見直し

AI採用の観点でいうと、どういう観点でAIに選ばせておくか、というのはZENKIGENではどのように行っていますか?

採用のスクリーニングに関しては、人間性や雰囲気のような人間が大事にしてきた部分に関して、AIにやらせてみようと思っています。

元々SPI等で能力データは取れていたんですよね。そうすると、企業は能力値が高い人だけを面接に通すということをやっていたのですが、能力高くてもカルチャーマッチしないということが起こったりするんですよね。

それに対して、エントリー動画という自己PR動画をつけてもらうと、印象の良さが分かるんですよ。それは人間が見ても分かるのですが、数が多すぎて人間がさばききれないということが起こっています。

なので、学力の軸と印象の軸を2つ合わせて、両方とも評価が高い人はリスクがないので優先的に通すようにします。一方、印象は良いけれどスキルが低い人、スキルは高いけれど印象が良くない人のどちらを通過させるのかという新しい選択を人間が実施するべきだと思います。

まずは自分たちがどういう軸を大事にしているのかというのを言語化して、「知能だけで良かったのか」というのを立ち返っていただき、採用基準の見直しをかけています。

AIだからこそ出来る、ノンバーバルでの評価

人間性や雰囲気はどのように判断しているんですか?

バーバルの情報はロジカルに話せているか等で知能と変わらないと思って測っていません。むしろノンバーバルの表情や、ハキハキ話しているか、目線の動き等で、事前に準備しているか、という情報が分かります。その教師データを作って、どんどんAIの精度をあげていっています。

メラビアンの法則というのがありまして、人間のコミュニケーションの9割はノンバーバルからの印象を受けているので、それをちゃんと検知できるようにAIを作っています。

ただ気をつけないといけないのは、表現が上手な人もいれば、下手な人もいることです。元気がなくてもしっかり喋れていたら加点する等のチューニングが必要になります。それを除いては、人間と同じぐらいの見極めが出来るようになっています。

また、業種にもよるかなと思っていまして、例えばエンジニアだとノンバーバルはそこまで評価対象にならないと思いますが、そのあたりはどうしていますか?

印象以外にも、落ち着きなども測っていたりします。エンジニアではそのあたりも見ていますね。早口になる人は緊張に弱いんだなというのも分かりますが、落ち着いている人がいいとか、雰囲気が柔らかい人等もAIで取れるので、そのあたりのしきい値は企業のカルチャーによって選んでいただいていますね。

エントリー動画で面白い企業の例はありますか?

90秒の動画で真面目に自己PRをしてくれるほうがいいという会社もあれば、自分らしさ100%で、私服着て草むらを走り回っているほうを高評価する場合もあります。企業カルチャーが違うので、候補者の撮影方法の工夫に関する判定もしています。候補者により工夫や表現がされているものは、AIで顔が検出出来なかったり、聞こえにくかったりするので評価するのが困難な場合もありますが、逆に工夫している人たちをピックアップしてそれだけを見たいというケースもあります。

今までは1000~2000動画来るなかで、このような独自性がある人だけをピックアップすることは、再生するまで分からないので出来なかったと思うんですよね。ですが、動画を見る前からAIがある程度「この子たちは候補者が工夫している」と判断して、AIではスコア判定不能でも人間が判定できるわけです。

AI採用が進むと就活生もAIの判定軸に合わせていきそうですね。

そういったのも今後出てくると思いますし、例えば録画データをあげたら合格率が出てくるみたいなサービスを就職支援会社も実施するかもしれないですね。でも、それは悪いことじゃないんです。そもそも評価するに耐えられない動画があるなかで、底上げをできるというのが出来ればいいですよね。また、企業側も使い方が高度化していきます。

例えば「熱量がこれ以上、工夫もこれ以上の学生が欲しい。その代わり礼儀は要らない。」となってきたら、パラメーターが増えれば増えるほど、学生側のハックも、企業側も評価も難しくなります。そうすると、AIと人間がちゃんと設計して、意図をもってやらないとうまくいきません。

AIにより、面接の課題も浮き彫りに

面接の課題に対しては、どのようなAI活用をされていますか?

面接の動画を解析しているのですが、同じ候補者でも面接官により、合格・不合格がぶれることがあります。私たちは面接力が高い人を定義しているのですが、面接官がいっぱい喋っている人ではなく、候補者の能力をちゃんと引き出せているのかをポイントとしています。そういう方ほど公正なジャッジをしています。

事前に質問リストを作る人も多いかと思いますが、リストのままに聞いてしまうと候補者の引き出しが出来なくて落としてしまうケースがあります。映像解析でも、発話量や表情で、候補者がやる気をなくしてしまい、喋らなくなってしまうんです。今までブラックボックス化していたことですが、面接のやり方が合ってるかチェックが走るようになってきています。

エントリー動画でパターンや癖が分かっていると、こういうタイプの人はどの面接官にするとよく喋れる、情報が引き出せるのかが分かり始めます。

AI採用に向けて、取るべきデータとは?

AI採用の本格化に向けて、データはどのように取っていけばいいですか?

入社後のパフォーマンスと面接時の評価をちゃんと比較出来るようにデータクレンジングしておくことですね。

ある外資ベンチャー事例ですと、面接官の評価を行っていて、離職しないかという軸とパフォーマンスを出したかという軸を2つチェックしています。定着してくれてパフォーマンスを出している人を採用した面接官は、裁量権をもっと強化しているんですよ。すぐ辞めてしまう人を採用した人は面接官から除外することもやっています。

採用フォーメーションの高度化は海外では始まっており、日本でもやり始めないといけないと思っています。外資は入れ替えが激しいので簡単ですが、日本は3年頑張れと言われ、なかなか辞めないんですよね。なので、3年以上長期のプロジェクトを立ち上げてデータを取っていく必要があります。

HRだけでなく、3~5年の長期プロジェクトを人材育成などの現場のHRサイドも共同プロジェクトでやっていく必要があります。そうすると引き継がれていくと思いますし、プロジェクトがなくなるということもありません。全社プロジェクトぐらいの規模でないとうまくいかないと思います。HRは戦略から外れているイメージがありますが、本当は競争力の一番の源泉なのですから。

AI活用とともに人事も変わる

AIによるエントリー動画が生まれてきたからこそ、今まで出来ていなかったノンバーバルでの評価ができ、過去に採用されていなかった人材の採用及び採用基準の見直しが始まってきています。また、面接時・入社後の比較をするためのデータを持ち、採用自体の評価も行っていくために、経営課題として長期的なプロジェクトとして捉える必要があると思います。

>次回 ZENKIGEN Lab Report 010 はこちら

小荷田 成尭(株式会社ZENKIGEN データサイエンティスト)

ラボ組織立ち上げ、データサイエンス組織・デザイン組織・R&D等を主に担当。2014年ソフトバンク株式会社に新卒入社。ITインフラのSEとしてBI開発を行う。その後、アクセンチュア株式会社に転職し、ジョイントベンチャーである株式会社ARISE analyticsにデータサイエンティストとして参画。2019年10月に株式会社ZENKIGENへ入社・現職。

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