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採用DXが採用をどのように変えるのか – ZENKIGEN Lab Report 001

石丸 晋平 (株式会社ZENKIGEN 採用DXソリューションの事業開発責任者)

企業において欠かすことのできない「採用」という業務は、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいるとは言えずまだまだアナログな業務が多い現状にあります。

今回は、現状のアナログ採用が抱える3つの課題と、AIでサポートすることによって我々ZENKIGENが描く採用の未来について、石丸に伺いました。

アナログ採用の構造的な3つの課題

アナログの新卒採用における課題としてはどのようなことがあるのでしょうか。

アナログ採用の構造的な課題は大きく分けて3つあります。

  • 1.新卒採用にかかる膨大なコスト
  • 2.書類で候補者の素質を見抜くには限界があること
  • 3.効果的な面接をするには面接官のスキル・適切な配置が必要であること

それぞれの実態を説明します。

年間で2500万時間!?新卒採用にかかる膨大なコスト

新卒採用にかかるコストはいくらぐらいかかっているのでしょうか。

新卒採用では年に1度の入社タイミングに合わせ、各社選考を進めることが多いです。新卒採用の現実を実感するために、まずはかかるコストを計算してみます。

市場として、毎年50~60万人の学生が就職活動をしています。平均的な面接受験回数は1人あたり10回。日本中で、1年の新卒採用に500万回面接が行われていることになります。

約1時間の面接に対して、移動や事前準備、評価や申し送りの時間がかかることを考えると、1回の面接に両者合わせて約5時間として、単純計算でも2500万時間を社会的に消費しています。


※一人あたり5時間は面接官と面接者の合計

面接官の人数目安としてはどれぐらいの工数やコストをかけていますか?

人気の企業には1万件を超える応募が集まり、書類選考などを経て、2割程度まで絞り込みます。選考通過者である2000〜3000名に対し同時進行で対応するために、大手企業の場合は面接官として社員を5〜600人、多いところだと800人アサインしているケースもあります。

仮に800人が1回ずつの面接をすると、少なくとも800時間を採用面接に割くことになりますが、事前の準備も必要ですし、担当する面接は一人一回とは限りません。1人の候補者に対して2~3名で面接するケースももちろんあります。そうなってくると面接対応で数千時間はかかってきます。

全社で5000時間かかっていた場合、仮に時間単価5000円としても人件費は2500万円。これは、時間単価を低めに見積もっています。面接には、現場のエース級社員や役員も参加し、移動・準備・評価・引き継ぎなどの一連のタスクが発生するため、おそらく5000万円分くらいの費用がかかっていると考えてよいでしょう。

実際の業務では、外注するという選択肢もありますし、かかるコストは時間なのでキャッシュアウトはなかったりするものの、それくらいの人件費を使っているのです。

現場の面接のコスト以外に、どのような影響や課題がありますか?

役員や部長など要職に当たる役職クラスが採用には必ず関わります。

役職のある方々は時間単価がもっと高いでしょうし、この方々が付加価値を生まないと会社の経済活動は成立しません。付加価値ベースで言うと、さらに数倍のインパクトがある時間を吸い上げている業務になっています。

これだけのコストを掛けて、面接を行ったうち9割の受験者は不合格になります。毎回が充実した面接になるとは考えにくいため、候補者の成長機会にもあまりなりません。

対して面接官側も、新卒面接は面接や評価のプロでもない人が突然呼ばれて駆り出され、先輩として社風を話すだけになってるケースが多く存在します。

面接官は会社の玄関口となるので誇らしい業務です。しかし実際は特に自分の業務に役立つわけでも評価につながるわけでもない時間のため、働き方改革の中で生産性向上が謳われている現代では、さほど嬉しくない業務になってしまっているのではないでしょうか。

書類で候補者の素質を見抜くには限界がある

2番目の「書類で候補者の素質を見抜くには限界があること」については、どのような課題があるのでしょうか?

新卒採用は期間が限定されている上に大量の応募が来ます。

応募母数に対して、面接で会える人はごくわずかな枠しかない中で、応募書類に記載された情報のみで果たして満足に判断ができるのか。書類や人の目で判断するには限界があるのでは、というのが人事担当共通の課題感です。

1万件を超える応募の中から自社に合う人を見つけるのは容易なことではありません。
エントリーシートや適性検査など、試験行ったり応募の動機をできるだけ書面で確認できるようにして、その中から極めて社風に合う候補者や応募意思の強い候補者を人事担当は探しています。

大量の応募が来るなかで、候補者を選別する難しさはどんなところにありますか?

到着したエントリーシートが1万件あった場合、1件を5分で見ても膨大な時間を要します。

しかし、蓋を開けてみると実は全然違う業界だけを志望していて練習に来ている候補者や、応募書類が代筆されている、明らかに働く志望に対して自社が合わないケースなど話し始めた瞬間にお互いに違うとわかる候補者が一定の割合で紛れ込んでしまう現実があります。

とはいえ内容を確認せず合否を判定することはできません。1枚1枚を均等に適切に見ていくのはかなりの業務工数的に負担がかかるので、現実問題としては人数をある程度絞ってから深く読み込まないと到底候補者の素質を見抜くことはできないことも課題です。

人事・採用担当の限られた時間についての課題は何があるのでしょうか?

人事担当は、社内において昨今の働き方改革を主導し推進する立場です。しかし人事担当メンバーの時間リソースから採用業務に数千時間を使っているものの、採用されるのはごく1割を切ります。9割の時間がコミュニケーションコストになっているのです。

人事担当者は、数百人の社員と数千人の候補者に対して、一つ一つ、誠実にコミュニケーションをしようとされている方が多いです。業務遂行上、この誠実なコミュニケーションや配慮の姿勢は必要不可欠です。

しかし数名もしくは十数名のチームで数百人から数千人の人たちとコミュニケーションを取るのはかなり気も使いますし、やりとりは大変です。ひとつひとつ丁寧にやろうとすると単純に人数や面接の回数分、手間がふえていくので、時間を掛けざるを得ない環境に追い込まれてしまっているのが現在の人事担当の状況です。

中途採用も担当業務の場合、更にどんな課題がありますか?

新卒採用のみならず中途採用の場合だと、候補者は日中は現職に勤務していることが多く、面接官も昼間の時間は空けづらいため夜間中の稼働が増えるケースが多いです。

コロナ禍では緩和している部分も少しありますが、結局夜間中に面接をしなければいけないとか、明日の朝までに評価を終わらせておかないといけない、申し送りをしておかないといけないという状況が続いて、数名で大量の応募をさばくために、業務時間外でも調整や評価、対応を強いられているというのがまさに採用担当者の現実なのかなと考えています。

結果、エントリー数÷人事担当数÷労働時間をすると、1人の候補者にかけられる時間にかけられる時間は限りなく少ない時間になります。この様な状況では、大切な社員になりえる候補者に対し、きちんと向き合えていないと感じてしまう人事担当者は少なくないと思います。

効果的な面接には面接官のスキルと適切な配置が必要

アナログ採用の3つ目の課題について教えて下さい。

効果的な面接をするには面接官のスキル・適切な配置が必要なことです。

各候補者に対して面接官を設定する時、候補者の志望や意向、特性について判断した上で適切な面接官を設定できている会社はほとんどありません。

現在のアナログ体制ではそこまで詳細に判断し、個別調整を行うことは難しいでしょう。

例えば「まずは会社の外観を知りたい」と考えている候補者と「入社意欲が高く、リアリティギャップを減らしたい」という意向の候補者がいた場合、候補者の性格や想定されるポジションによって適した面接官は違うはずです。

時には、会話のノリや思考の速度が合うか否かなど人と人としての相性の良し悪しが発生してしまい、評価に影響してくることは想像に難くありません。しかし会社として適切な人員を採用するためには、候補者と面接官の相性はある程度均一にし、明らかに相性が悪い組み合わせは省く必要があります。でないと必要な人員まで不合格にしてしまう可能性があります。

面接官のスキルについての課題はありますか?

大半の面接官のあくまで自分の業務に対する責任や評価が伴わない形で有志で出ているに過ぎません。一時的に面接官を担当しているだけなので選考について専門スキルがあるわけではなく、「今後のポテンシャルを査定する」という人事担当領域でも難しい査定業務に対してクオリティにバラつきが出てしまいます。

どの面接官が担当するかによって左右される要素は大きく、本当の意味で公平で適切な査定ができているかという点は大きな課題となっています。

人が何を評価しているのかを言語化する。そしてそれをAIが補助していく

現在のアナログ採用での課題をどのように解決していくとよいのでしょうか。

大量の募集を適正公平に評価し、自社に合う可能性のある候補者と出会いたいというのはどの会社も人事担当も考えていることです。

弊社が提供している採用DXソリューション「harutaka(ハルタカ)」の機能に、エントリー動画の提出機能があります。これはエントリーシートで書くような自己PRを、候補者が自分の言葉で話す様子をスマホで録画して送信すると、翌朝以降にシステム上で人事担当がエントリー動画を確認することのできるツールです。

今までの採用では実現できなかった「会うまで人となりがわからない」という課題を解決することで、より複合的で会社とのマッチ度が高い評価ができるようになりました。一部の導入企業では「より自社の文化やカルチャーとマッチする方に出会えて、今まで採用できなかった方と面接ができるようになった。」とのお声をいただいています。

弊社では、採用のデジタル化を推進するにあたって「エントリー動画」は有効であると考えています。多数の動画の中でも、明らかにスキマ時間で撮影して送ってきたものと志望動機が明確で準備しているものには差が出ます。動画の中できちんとアピールができているか、話し方や口調、表情の作り方など、動画から印象としてわかることはたくさんあります。

エントリー動画を使うことで、これまでの書類選考とどんな良い変化があるのでしょうか。

これまでの書類選考では、学力や能力は評価軸として判断しやすいデータでした。

しかし学力や能力だけで判断して面接に通すと、有効でない候補者も一定数いることが課題でした。学力や能力のみの判断で生まれていた当落線上のたくさんの候補者に対して追加判断軸を新たに作ることで、書類上だと不合格でも、動画だと受かる可能性がある候補者が出て来ます。

エントリー動画からわかる情報と、応募書類のテキストからわかる情報は別であるため、組み合わせて審査することにより、複合的に判断することができるようになるのです。

エントリー動画を大量にさばくのも時間やコストがかかりませんか?

エントリー動画によって大量の応募をさばけるかというと、ご想像の通りこれはまた大変です。1本5分を複数人で見るとしたら、下手すると書類審査より時間がかかってしまいます。また、動画を見る方の好みによって評価がぶれてしまうかも知れません。

そこを助けるのがAIです。

エントリー動画やAIを評価にどう使っていくかは各社人事担当の判断になりますが、まずはAIのモデルを作るために自社の文化に合う候補者の条件を評価基準として整理する必要があります。

AIのために整理したものが副次的に面接の評価軸にもなることで、面接時のアンマッチを防ぐことにも繋がります。

AIによるエントリー動画を導入する際にどんなことに取り組めばよいでしょうか?

まず取り組むのは、採用フローの中の無駄を減らすことです。

面接は社会科見学ではありません。「ともに働く」という目的に一致しない人を面接に呼ばないで済むように、お互いの時間を掛けないで済むように面接にお呼びする前の判断の精度を高めます。

また、相性や面接官のスキル不足から来る無効な面接=候補者の情報や能力を何も引き出せなかった面接を減らし、会社と候補者の相性を測ることのできる有効な面接を増やしていきます。

AI採用で目指す世界

石丸さんが考えるAIで実現したい世界観を教えて下さい。

近い将来として描いているのは、面接時のコミュニケーションをAIがサポートする世界です。

例えば、アイスブレイクで候補者に笑顔が出るかどうかを判定出来るようになることです。

ストレス耐性を見る面接なら緊張したままでも良いかも知れませんが、自己PRをして人となりを確認したい場合、あるいは対話をしてどれくらい思考ができる方かを見ていきたい、という目的がある場合には候補者にリラックスしてもらい、面接の時間の中に、本人を引き出す必要があります。

現在、面接時にリラックスしているかどうかまで人事担当が一つ一つチェックして解析することはできません。割ける時間が残っていませんし、面接はブラックボックスなものとされています。

どんなことが出来るようになるイメージでしょうか?

AIが動画の解析をして補助をするという世界観だと、候補者がリラックスできている面接がどれくらいの数あって、リラックスできていない面接がどの数あったのかをデータとして後々レポーティングすることができます。また、将来的には、「リラックス値が足りてません」というアラートまで出せるようになるかも知れません。

会話をしていく中で、人間同士なのですごく会話がはずんで盛り上がる瞬間もあれば、話が噛み合わず気まずい瞬間もあるはずです。それを面接の中で特定していくことによって、両者にとってその面接の体験がよかったのか、AIが数値化していくことができます。

数値化されたデータをどのように活用できそうでしょうか?

データを活用することで、これから本当にほしい人材や、採用力を上げたいセグメントの求職者に対して、採用力の高いコミュニケーションができるようになります。

AIが一回一回の面接の体験を分析し、精度を上げていくことができると、人事担当が行う大量のコミュニケーションの質が1つ1つ向上し、その質が会社の採用力向上につながる上に求職者も納得感を持って入社することができます。

その状態が達成できれば、入社後の活躍やオンボーディングにも良い影響となり、採用の本質的な役割が達成されると考えています。

この採用は果たして「正解」だったのか

石丸さんが考える採用におけるゴールとは何でしょうか?

面接官、候補者共に「なぜ受かったのか」「なぜ落ちたのか」という点が明確であり、納得感を持っていることが重要です。

採用や面接は会社の玄関口です。仮に不合格になってしまった候補者とも、今後のご縁があるかもしれませんし、会社の評判も左右する恐れがあります。

そして、一番大事なのは入ってくる方々です。自分自身の入る動機づけが明確化しているか否かで、入社後の活躍や成長の度合いは変わってきます。採用のフローが、合否の理由について明確に理由付けられるようなプロセスに変わってくるという質的な変化は極めて重要だと言えます。

採用は今後の活躍が分からないなかで、「この採用は果たして正解だったのか」というのは人事としてどのように考えればよいでしょうか?

その問いは、採用に関わる方なら必ず気になるところだと思いますが、実際の採用の正解不正解は入社してから発覚するものです。

高い評価で入った人が本当に活躍して将来の経営幹部層になっているのか、期待はずれになってしまったのか。あるいは、ギリギリのところで受かってきた方が実は番狂わせのように活躍しているケースもあるはずです。

採用のDXが進むことで、これらの採用時点での評価軸のブレが、データを持っていることによって経年で確認でき結果データからのフィードバックができるようになっていきます。

毎年毎年、過去の慣習のもとやり続けていた採用が、結果というファクトをベースに採用の業務、評価の基準、面接官のアサインメントだったりを変えていくことができるのです。

アナログ採用の苦しみをAIでサポートする

今後AIによって、人事・採用がどのように変わっていくのでしょうか。

人事担当の方々は膨大な求職者と面接官のアサイン、そしてその結果をコントロールするという業務に苦労しながらも取り組み続けてきています。

採用が終わった後、入社した後どうなるのか、この採用は正解だったのか、気になっているもののそこまで追跡してフィードバックし、業務を設計するということはこれまでできていませんでした。

募集を集めて内定にたどり着くだけでも本当に大変で忙殺されている現状の中で、採用のDXを進めるために、実際に導入を決定していただきプロジェクトを進めている企業が複数社あります。

その中の1つの人事担当者様は、導入決定の理由を以下のように教えてくださいました。

「書類選考を誠実にどれだけ対応しても、きっと落ちた中には、自社で活躍してくれるはずだった人がたくさんいたんだと思う。でも、今の体制では限界があって。応募してくれた人の中にどんな人がいたのかをより詳しく確認できるようになることが、採用力を向上していくために一番うれしい。」

候補者が求人応募に苦労するのと同じくらいかそれ以上に人事担当も苦労していて、誠実に対応しようと努めています。ただ、アナログ採用の限界がありました。

そこをAIがサポートすれば、ここまで真摯に採用選考に向き合うことができる、という点に喜びと期待を寄せていただいています。

今後は採用のデジタル化で工数を削減するだけではなく、データを蓄積して定性的な情報をデジタルに保管することによって、将来経営幹部になったり、会社に貢献してくれる方や合わなくて出ていく方など結果情報を経年でフィードバックすることでDXが完成していきます。

オンライン化が進んだ2020年は、採用のDXに着手するには契機になった年です。人材採用に取り組む皆さまと伴走していきたいと思っています。

>次回 ZENKIGEN Lab Report 002 はこちら

インタビューアセスメント

石丸 晋平(株式会社ZENKIGEN 採用DXソリューションの事業開発責任者)

1983年福岡県生まれ。全機現というビジョンに共感して、2018年にZENKIGENに参画。 人は社会の財産という想いから「社会に開かれた人事」をコンセプトに掲げ、HRをヒューマン・リレーションシップス(資源管理から関係支援)に変容することを目指している。現在は、事業開発を中心に、企業人事への新たなテクノロジーとメソドロジーの実装、人の感情や身体に関わるデータとコミュニケーションの関係を計測する共同研究に従事。

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