多様化に対応する企業に。今注目の「サーバントリーダーシップ」とは?
アメリカで提唱された「サーバントリーダーシップ」は、近年日本でも多くの企業がこの考え方を導入しているリーダーシップ哲学です。今回は、サーバントリーダーシップのメリットやデメリット、導入事例などをまとめてご紹介します。
目次
サーバントリーダーシップとは
サーバントリーダーシップとは、「リーダーはまず相手に奉仕し、その後相手を導くもの」という思想に基づいて生まれたリーダーシップ哲学のこと。部下の個性や能力をより引き出せるよう、上司が部下を支援・奉仕するといった”支援型リーダーシップ”です。
このリーダーシップ論は、部下が上司の命令に従って動く”支配型リーダーシップ”の考え方ではなく、部下と上司が対等な立場となり組織全体の成長を促します。ただし、”部下の言うことを聞く”、”部下の顔色を伺う”という意味ではなく、あくまで支援をして部下の目標達成することが目的です。
サーバントリーダーシップの誕生
この考え方は1970年にアメリカ人であるロバート・K・グリーンリーフという研究者が提唱したリーダーシップ哲学です。『リーダーとしてのサーバント』というエッセイを出版し、アメリカでサーバントリーダーシップの考え方を浸透させるために、企業や学校へのコンサルタントや執筆活動を行っていました。
生涯をかけて組織研究を行い、グリーンリーフが亡くなった1990年以降に、このサーバントリーダーシップ論が、全世界で支持を集めることとなりました。
従来の支配型リーダーシップとの違い
従来、日本の企業で主流となっていたのは、”支配型リーダシップ”というものでした。上司が部下に指示や命令を与え、組織を動かして成果を生み出す方法です。この方法は上司による一方的なコミュニケーションとなってしまい、部下は上司の命令に従い、”義務感”で業務をこなすようになる恐れがあります。
一方で支援型リーダーシップは、部下を個人として認識し、尊重をして、仕事へのモチベーションを維持させながら、部下が率先して業務に取り組めるよう、生産性向上を促す方法を指します。労働人口が減少している現代社会では、限られた人材のなかで一個人の生産性をあげることが重要視されているため、従来の考え方ではなく、このようなサーバントリーダーシップが浸透しはじめているのです。
サーバントリーダーシップが注目される理由
1990年から徐々に注目されるようになってから、現代で再びサーバント・リーダーシップが注目を集めています。その理由として、働き方の多様化が大きな要因だと挙げられます。
性別や国籍に問わずアイデンティティーを尊重する考え方が広がっており、”個”を大切にすることが重要視されています。上述したように統率力でメンバーを従うやり方ではなく、会社や上司がそれぞれ個人の特性と能力を理解し、一人ひとりが活躍できる環境を作り上げることが求められている現代では、支援型のリーダーが必要となります。
サーバントリーダーシップのメリット
社内コミュニケーションが活発化する
サーバントリーダーシップは、意見を尊重しあって部下の能力を認めることが重要です。そのため、従来の支配型リーダーシップに比べて、上司と部下の関係がフラットになり、上司と部下のみならずチーム内全体のコミュニケーションが活発化するでしょう。
業務に対する姿勢が変わる
上司の指示により部下が動くのではなく、上司が部下の目標を支援することが求められるため、部下が業務に対する責任感が芽生え、能動的に行動することが期待できます。率先して業務をこなす人材を増やすことができれば、組織全体の士気向上や成長にも繋がるでしょう。
離職率の低下
従来の支配型リーダシップでは、上司の命令によって部下が動くため、仕事に対するモチベーションの低下や自分自身の存在価値が感じられなくなるケースが多いでしょう。サーバントリーダーシップの思想では、自分の個性や能力が尊重されるため、業務に対するやりがいを感じて、会社への貢献度も変わってきます。
労働人口が低下している今、個人の生産性向上と同時に、離職率の低下も課題となってくるため、これは大きなメリットと言えるでしょう。
サーバントリーダーシップのデメリット
意思決定に時間がかかる
サーバントリーダーシップは、部下の意見にしっかりと耳を傾けることが特徴ですが、一人ひとりから意見を集めるため、部下の人数が多ければ多いほど意思決定をするのに時間がかかってしまいます。意思決定が遅れると業務に影響がでてしまうため、WEB上でアンケートを取るなどして、部下からの意見の抽出をいかに効率よく行うかどうかが重要です。
追いつけないメンバーが出てくる
部下が目標に対して能動的に動いてもらいやすくなるのがメリットですが、反対に自ら率先して動くのが苦手な人や経験値が低い人に関しては、その環境に追いつけない可能性が十分にあります。そのため、サーバントリーダーシップを導入の際には従業員の理解を得ることが大切です。
サーバントリーダーシップの導入事例
ダイエー
大手スーパーである「ダイエー」では、業績悪化が続き、50店舗が閉鎖されることになりました。その際に元社長である樋口泰行氏は、閉鎖の理由や感謝の気持ちを伝えるために対象の店舗に出向いて従業員とコミュニケーションを交わし、従業員のモチベーション向上へと繋がりました。
各従業員は「閉店売りつくしセール」に尽力し、ダイエーは2年4ヶ月ぶりに前年比プラスの売上を記録することができました。
対象の店舗が閉店したあとも、同従業員は移動先のスタッフたちにモチベーションの向上を促進し、11ヶ月連続で前年比プラスの売上を記録したといいます。
資生堂
当時、取締役秘書室長であった池田守男氏は、「資生堂を生まれ変わらせること」をミッションに代表取締役社長へ就任しました。大量生産をしていた工場も閉鎖し、過剰在庫を作らない”店頭中心”の組織改革を行いました。
また、現場スタッフの意見を取り入れた施策を導入したり、従業員が働きやすい環境を作るなど、現場にいる従業員を頂上とした”逆ピラミッド”を目標に人材管理を行い、資生堂の変革者として名を広めました。
スターバックス
大手コーヒーチェーンのスターバックスの創業者であるハワード・シュルツ氏は、”人がすべて”であり、”すべての人に尽くす人間こそが最も有能なリーダーである”という考えのもと、サーバントリーダーシップを提唱しました。
この思想から、スターバックスはストアマネージャーに対し「奉仕型リーダー育成セミナー」を行い、現在でも全世界のスターバックスの店舗でシュルツ氏のリーダーシップ理論が色濃く残っています。
多様化に適応する
リーダーシップの理想像は、時代や社会状況によって異なるため、多様化する働き方に企業はどのように対応すればいいか考える必要があります。そのひとつの対策として、サーバントリーダーシップを取り入れることが、持続的な組織の成長を促す一手となるのではないでしょうか。